『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』到着レビュー その4
今回DVDに収録された『ウイングス・オーヴァー・ザ・ワールド』は、その昔NHKのヤング・ミュージック・ショーという洋楽番組で観た記憶がある。すごいもので、ネットで調べてみたらすぐに放映年月日がわかってしまった。1979年10月13日、なんと今から34年ほども前の話である。時期的にはアルバム『バック・トゥ・ジ・エッグ』の発売直後ということになる。番組の内容は断片的にしか覚えていなかったのだが、とにかくテレビにかじりついて見ていたことだけは昨日の事のように鮮明に覚えている。なぜなら、当時はポールの映像、つまり彼が動く姿を見れるということ自体が本当に少なかったからだ。ましてやポールのコンサート映像をテレビでやるなどということは皆無に等しい時代だった。今のように、ライヴの翌日にはYouTubeでポールの演奏シーンが見れてしまう、などというのとはわけが違う。とにかくポールが出ている映像自体の価値、重みがまるで違ったのである。あの頃、僕たちファンはポールの映像に文字通り飢えていた…。
当時ウイングスのアメリカ公演が大変な評判になっていたことは、日本でも情報としては僕たちファンの耳には入ってきていた。だが、それはあくまでも実際の映像、サウンドを伴わない雑誌やラジオを通しての情報にすぎなかった(アルバムだけはその後すぐに発売されたが)。個人的によく覚えているのは、当時アイドル的な人気を博していた原田真二さんがウイングスの公演を見たい見たいとラジオで熱心に語っていたことである。僕はラジオを聴きながら「ああ、これだけ人気のある芸能人でも、ウイングスのチケットは取れないんだ、見に行けないんだ。」と、半ば絶望的な思いを抱いたのを思い出した。ポールとウイングスは僕たち日本人にはまだまだ遠い夢のように手の届かない時代だったのである。
そんなウイングスの伝説的なワールドツアーのドキュメンタリーとして制作されたのがこの『ウイングス・オーヴァー・ザ・ワールド』であった。そして、それが日本で放送されたのがツアーが終わってからやっと3年後の1979年。いかに当時の情報の流れというものが遅かったかがわかるだろう。『ロック・ショウ』にしても、日本での劇場公開はそれからさらに2年後の1981年だった。
ともかくこの映像作品がアーカイヴ・コレクションのリリースを機に再び日の目を見たことはファンにとっては非常に喜ばしいことである。心配された映像の劣化も視聴に問題がないほどに修復されているように思う。これはウイングス全盛期の第一級映像資料として、ファン必見の作品である。
今回本当に久しぶりにこのドキュメンタリーを見て、まず感じたのは、ポールのライヴ・パフォーマーとしての凄さである。特にリッケンバッカー・ベースをブンブン、ボンボコ、デケデケ、ドゴドゴと縦横無尽に弾きまくりながら歌うさまは、さながら音楽の神が降臨したかのような錯覚さえ感じさせるほどのものであった。特に印象に残ったのが『レッティング・ゴー』のベースプレイで、あまりのすばらしさに僕は「ひえ~、カッコいい~!」と思わず声に出してしまったほどである。ポールは若い時はこんなにもヘヴィーなベースプレイをステージで披露していたのかと、今さらながら畏敬の念を感じざるをえなかった。やっぱ世界一でしょう、この人。ちなみにかねてからファンの間でもこのリッケンバッカーの復活を望む声は大きいのだが、このベース今のポールには重すぎるのだそうだ。いや~残念!
さらに驚くべきは、ウイングスというバンドがデニー・レインを除きほぼ無名のミュージシャンで構成されていたという事実である。ジミー・マッカロックも、ジョー・イングリッシュもすばらしく個性的で優秀なプレーヤーだが、ウイングス以前にはこれといった実績はなかったのである。そして、ウイングス脱退以後もこれといった実績は残していない。リンダに至っては、ご存じの通りもともとは完全なシロウトである。ウイングス以前にそこそこの実績を残していたデニーでさえ、やはりウイングス解散以降はほとんど鳴かず飛ばずだった。だがポールはこれら4人をそれぞれにしっかりキャラの立ったウイングスのメンバーとして育て上げたのだ。そのポールの手腕、そして個人の才能を引き出す能力には驚くべきものがある。このドキュメンタリーは、ポール以外のメンバーたちの個々の魅力を知る上でも重要な作品である。
結果として今回のDVDはこれまでのアーカイヴ・シリーズの中では最も充実した収録内容と言い切って差し支えないだろう。映像の中身についてはまだまだ興味は尽きないが、今日のところはここまで。
参考:
『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』
日本盤:
ウイングス・オーヴァー・アメリカ 【スーパー・デラックス・エディション】(3CD+1DVD)
ウイングス・オーヴァー・アメリカ 【通常盤】(2CD)
海外盤:
Wings Over America 【デラックス・エディション】(3CD+1DVD)
Wings Over America 【通常盤】(2CD)
Wings Over America 【アナログ】(LP3枚組)
『ロック・ショウ』
ロックショウ [Blu-ray]
ロックショウ [DVD]
当時ウイングスのアメリカ公演が大変な評判になっていたことは、日本でも情報としては僕たちファンの耳には入ってきていた。だが、それはあくまでも実際の映像、サウンドを伴わない雑誌やラジオを通しての情報にすぎなかった(アルバムだけはその後すぐに発売されたが)。個人的によく覚えているのは、当時アイドル的な人気を博していた原田真二さんがウイングスの公演を見たい見たいとラジオで熱心に語っていたことである。僕はラジオを聴きながら「ああ、これだけ人気のある芸能人でも、ウイングスのチケットは取れないんだ、見に行けないんだ。」と、半ば絶望的な思いを抱いたのを思い出した。ポールとウイングスは僕たち日本人にはまだまだ遠い夢のように手の届かない時代だったのである。
そんなウイングスの伝説的なワールドツアーのドキュメンタリーとして制作されたのがこの『ウイングス・オーヴァー・ザ・ワールド』であった。そして、それが日本で放送されたのがツアーが終わってからやっと3年後の1979年。いかに当時の情報の流れというものが遅かったかがわかるだろう。『ロック・ショウ』にしても、日本での劇場公開はそれからさらに2年後の1981年だった。
ともかくこの映像作品がアーカイヴ・コレクションのリリースを機に再び日の目を見たことはファンにとっては非常に喜ばしいことである。心配された映像の劣化も視聴に問題がないほどに修復されているように思う。これはウイングス全盛期の第一級映像資料として、ファン必見の作品である。
今回本当に久しぶりにこのドキュメンタリーを見て、まず感じたのは、ポールのライヴ・パフォーマーとしての凄さである。特にリッケンバッカー・ベースをブンブン、ボンボコ、デケデケ、ドゴドゴと縦横無尽に弾きまくりながら歌うさまは、さながら音楽の神が降臨したかのような錯覚さえ感じさせるほどのものであった。特に印象に残ったのが『レッティング・ゴー』のベースプレイで、あまりのすばらしさに僕は「ひえ~、カッコいい~!」と思わず声に出してしまったほどである。ポールは若い時はこんなにもヘヴィーなベースプレイをステージで披露していたのかと、今さらながら畏敬の念を感じざるをえなかった。やっぱ世界一でしょう、この人。ちなみにかねてからファンの間でもこのリッケンバッカーの復活を望む声は大きいのだが、このベース今のポールには重すぎるのだそうだ。いや~残念!
さらに驚くべきは、ウイングスというバンドがデニー・レインを除きほぼ無名のミュージシャンで構成されていたという事実である。ジミー・マッカロックも、ジョー・イングリッシュもすばらしく個性的で優秀なプレーヤーだが、ウイングス以前にはこれといった実績はなかったのである。そして、ウイングス脱退以後もこれといった実績は残していない。リンダに至っては、ご存じの通りもともとは完全なシロウトである。ウイングス以前にそこそこの実績を残していたデニーでさえ、やはりウイングス解散以降はほとんど鳴かず飛ばずだった。だがポールはこれら4人をそれぞれにしっかりキャラの立ったウイングスのメンバーとして育て上げたのだ。そのポールの手腕、そして個人の才能を引き出す能力には驚くべきものがある。このドキュメンタリーは、ポール以外のメンバーたちの個々の魅力を知る上でも重要な作品である。
結果として今回のDVDはこれまでのアーカイヴ・シリーズの中では最も充実した収録内容と言い切って差し支えないだろう。映像の中身についてはまだまだ興味は尽きないが、今日のところはここまで。
参考:
『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』
日本盤:
ウイングス・オーヴァー・アメリカ 【スーパー・デラックス・エディション】(3CD+1DVD)
ウイングス・オーヴァー・アメリカ 【通常盤】(2CD)
海外盤:
Wings Over America 【デラックス・エディション】(3CD+1DVD)
Wings Over America 【通常盤】(2CD)
Wings Over America 【アナログ】(LP3枚組)
『ロック・ショウ』
ロックショウ [Blu-ray]
ロックショウ [DVD]
2013-06-15 │ ソロ・リマスター日記 │ Edit