FC2ブログ

ポールの曲: 『ヴァレンタイン・デイ(Valentine Day)』 - Macca Go Go Go! ポール・マッカートニーファンブログ・・・プラス!PLUS!+!

Macca Go Go Go! ポール・マッカートニーファンブログ・・・プラス!PLUS!+! ホーム » ポールの曲 » ポールの曲: 『ヴァレンタイン・デイ(Valentine Day)』

ポールの曲: 『ヴァレンタイン・デイ(Valentine Day)』

ポールがビートルズ時代にやりたくてもやれなかった事とは何だったのだろうか。実はそれを知るのは比較的簡単である。というのも、もしそれが知りたければ単純にビートルズ解散直後の作品群を聴いてみればよいからだ。名声を確立した偉大なるロックバンドの一員という制約を離れ、自由な空気の中で作られた音楽の中にこそその答えがあるはずである。
僕自身はファースト・ソロ・アルバムの『マッカートニー』から4枚目の『レッド・ローズ・スピードウェイ』ぐらいまでにその答えがあると思っている。実際それらのアルバム、そしてその時期のシングル盤には、おそらくポールがビートルズではやりたくてもやれなかったであろう音楽がたくさん聴ける。

端的に言えば、「甘ったるいバラード(僕に言わせれば甘美なバラードだが)」、「インストゥルメンタル・ナンバー」、「即興的な作品」、「荒削りな作品」、「形にこだわらない作品(なんでもあり)」なんてことになるだろうか。

中でもインストゥルメンタル・ナンバーについては、ポールはソロ第1作の『マッカートニー』からいきなり13曲中5曲も収録してしまうという極めて興味深い傾向を世に示している。ビートルズが全活動期間中にインストゥルメンタル・ナンバーと呼べる曲をたったの1曲(『フライング』)しか残さなかったという事実を考えれば、ポールの意外なインストゥルメンタル志向が当時のファンに与えたインパクトはかなり大きなものであったと推察される。だが少なくとも同時代をビートルズと共に生きた世代のファンたちにとってはそれは必ずしも歓迎されるべき類いの変化ではなかったにちがいない。なぜなら、当時のファンはポールにただ偉大なるビートルズ・ミュージックの再生産、ビートルズ伝説の後継者としての活躍、もしくはそれに準ずるものを期待していたからだ。

しかし、僕のように物心ついたときにはビートルズがとっくの昔に解散していた…というようなファンにとっては、事はそれほど重大ではなかった。僕はポールを聴き始めたその初めからインストゥルメンタル・ナンバーはポールの音楽性の重要な部分だと認識していたし、なによりもソロ活動がビートルズの続きという感覚自体がなかったのである。ビートルズはビートルズだったし、ポールはポールだったのだ。僕は初めから2つを分けて考えていた。ちなみに僕はポールが作ったインストゥルメンタル・ナンバーのほとんどが大好きである。

冒頭からいろいろと書いてしまったが、ともかくポールが当時最もやりたかった事の一つがインストゥルメンタル・ナンバーへの試みであったことだけはまちがいないだろう。今日取り上げた『ヴァレンタイン・デイ』も、そんなポールの新境地を示す小品の一つである(ポールがこの曲をアルバムの3曲目に持ってきたことはそれだけで注目に値する)。

ポールはこの曲をスチューダー製のマルチ・トラック・テープレコーダー(4トラック)を使用して自宅スタジオで録音したという。『ラヴリー・リンダ』や『ママ・ミス・アメリカ』などと同じく、この曲もどちらかといえばレコーディング機材のテストを兼ねたアドリブ録音だったといわれている。が、『ラヴリー・リンダ』はともかくとして、テストでこれだけの作品を作ってしまうポールの才能にはただただ驚くのみだ。

もちろん演奏はすべてポール。わずか2分にも満たない曲だが、ポールの類い稀なる音楽センスを感じさせる作品となっている。ポールの曲にしてはかなり暗めというか、硬派な雰囲気が漂っているのだが、それがこの曲をまた特別なものにしている。この空気感はこの時期独特のものだろう。僕らがよく知っている、音楽をただひたすら楽しむ底抜けに明るいポールとは違い、真顔で真剣にレコーディングに取り組んでいる彼の姿がなんとなく目に浮かんでしまう。ちなみに曲のタイトルはレコーディングがヴァレンタイン・デイかその前後に行なわれたために付けられたのではないかと思われる。

ポールが一人で多重録音を行なうときには、まず初めにドラムスもしくはアコースティックギターでベーシック・トラックを作り、そこに次々と他の楽器やヴォーカルを重ね合わせてゆくのだそうである。まさにシロウトには気の遠くなりそうな作業であるが、ポールがどのような作業工程を経て一つ一つの曲を仕上げたかを想像しながら『マッカートニー』や『ケイオス・アンド・クリエイション』、『メモリー・オールモスト・フル』などのアルバムを聴くとまた新たな発見などもあるかもしれない。

参考:マッカートニー(スーパー・デラックス・エディション)


関連記事