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新作『キス・オン・ザ・ボトム』の感想 その3 - Macca Go Go Go! ポール・マッカートニーファンブログ・・・プラス!PLUS!+!

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新作『キス・オン・ザ・ボトム』の感想 その3

さてジャンルを超えたマッカートニー印の名品とは『マイ・ヴァレンタイン』と『オンリー・アワ・ハーツ』の2曲のことである。僕は今回のポールのプロジェクトは、結果的にこの2曲のスローバラードの名曲が誕生したという事実だけでも十分に成功したといえるのではなかったかと思っている。なぜなら、これらの曲は、ポールの通常のアルバム制作プロセスではけっして生まれ得なかった全く新しいタイプの曲に思われるからだ。まさにジャズ・ミュージシャンと名プロデューサー、トミー・リピューマとの共同作業が最も良い形で実を結んだ作品と言ってもいいだろう。この組み合わせは全く予期せぬことに、ゲストミュージシャンたち(エリック・クラプトン、スティーヴィー・ワンダー)の名演まで引き出してしまった。(過去ポールが有名ミュージシャンと共演した際には、意外なほどその演奏は平凡に聴こえることが多かったのである)

またもうひとつ忘れてはならないのは、これらの曲が誕生した背景に、新しい人生の伴侶ナンシーの存在があったということである。これらの曲がナンシーのことを歌っていることは疑いようがなく、かつてのリンダがそうであったように、今やポールにとってナンシーは創作活動に強烈なインスピレーションとエネルギーを与えるキー・パーソンになりつつあるように思われる。彼女との関係が、今後ポールの作品に与える影響はけっして小さなものではないだろう。

最後にこのアルバムについての僕の個人的な評価だが、ポールのアルバムについてある程度客観的な評価を下せるようになるまでには最低数年はかかることを予めお断りした上で、あえて現時点での評価を言わせてもらうならば、10点満点中5点といったところだろうか。

自分でも意外なほど辛い点数となってしまったように思うが、その最も大きな理由は前述のポールのオリジナル曲以外で好きになれそうな曲が少なかったというところにある。いかにアルバム自体の完成度が高くとも、好きな曲が少なければアルバムを通して聴く回数は必然的に少なくなってしまうからだ。やはり全てがポールのオリジナル楽曲で占められたアルバムと比較すると、カバーアルバムというのはどうしても評価が下がってしまうのは致し方ない。逆にいえば、それぐらいポールのオリジナルアルバムというのはいわば純金にも勝る無限の価値を持つということである。

思いきってランク分けしてしまうと以下のようになる。(ランク付けはあくまで個人的な好みです)

Sランク:『マイ・ヴァレンタイン』『オンリー・アワ・ハーツ』
Aランク:『ベイビーズ・リクエスト』『マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ』
Bランク:"I'm Gonna Sit Right Down and Write Myself a Letter" "Ac-Cent-Tchu-Ate the Positive" "Get Yourself Another Fool"

Aランクがいずれもボーナストラックになってしまったのはある意味残念でもあるのだが、これは現時点における僕の正直な気持ちである。
『ベイビーズ・リクエスト』はポールにしては非常に珍しいリメイク・バージョンとなったが、この出来がオリジナルと甲乙つけ難いすばらしい出来となった。またこの曲が僕の耳には最もジャズっぽい曲に聴こえてしまうのはなんとも皮肉ではある。
『マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ』はボーナスを含めたアルバム全収録曲中最も甘く、切なく、ロマンティックなバラードである。おそらくそこがアルバムの収録から漏れてしまった理由とも考えられるのだが、僕に言わせればこれこそがポール最大の持ち味の一つなのだから、個人的には大歓迎だし、こういう曲はもっと入れてほしいと思う。カバー曲ということを忘れてしまうほど、ポールはこの曲を自分のモノにしている。

アルバムとしての評価は少々辛いものとなってしまったが、僕はこのアルバムは車の中で聴いたり(特に夜のドライブにはおススメ)、ポール自身も語っているように仕事のあとにお茶でも飲みながらリラックスして聴くには最適の一枚だと思う。耳触りがいいので何かをやりながらBGMとして聴くのもいいだろう。意外にもポールのアルバムには今までこういう作品がなかったので、やはり『キス・オン・ザ・ボトム』は「こういうアルバムが一枚ぐらいあってもいい」と思えるような作品というのが現時点での結論である。(完)

参考:
キス・オン・ザ・ボトム(日本盤 ボーナストラックなし)
Kisses on the Bottom (UKデラックス盤 ボーナストラック有)


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