僕の好きな曲 “木綿のハンカチーフ” by 太田裕美
僕がビートルズに夢中になる以前、音楽というものに目覚め始めた頃に好きになったアイドルの1人に太田裕美がいる。だが彼女はいわゆる正統派のアイドルではなく、どことなく庶民的で、なんとなく一般人にも手の届きそうなお姉さんというイメージがあった。僕は昔からひねくれ者なので、圧倒的に人気のあるアーティストやアイドルからは少し離れたところで自分の好みを探すのが得意だったようである。今考えれば、太田裕美もそんなアーティストの1人だったのかもしれない。
太田裕美の代表曲といえば「木綿のハンカチーフ」であり、これはもう世代を超えた超名曲である。同時代を生きた人間ならば必ず耳にしたことのある曲であり、果たして日本のポップスでこれよりもいい曲はあるのか、と問いたくなるほどの傑作である。作詞/作曲は日本が誇るゴールデンコンビ、松本隆(作詞)と筒美京平(作曲)。歌手太田裕美の活躍はこの最強のソングライターチームのすばらしき楽曲の数々を抜きにして語ることは絶対にできない。そんな彼らがデビューから一貫して強力な楽曲を提供し続けたのも、太田裕美というアーティストがきっと他にはない独特な魅力を持っていたからにちがいない。
さて、この曲はそのメロディーのすばらしさもさることながら、たった4分足らずの間に甘酸っぱい青春ドラマを色鮮やかに描き出すことに成功した作品でもある。その卓越した手法は、日本のポピュラーミュージック界に燦然と輝く偉業であると、僕は勝手に思ったりしている。また筒美本人によるアレンジの妙も忘れてはならない。特にストリングスとギターの使い方は絶品である。
しかしながら、この曲の良さを最大限に引き出した立役者はなんといっても太田裕美本人の甘く切ないヴォーカルそのものであろう。彼女独特の舌っ足らずの歌に、若き日の僕はメロメロになってしまったものである(笑)。
そんなわけで、それほど大ヒットを連発したわけでもないのに、太田裕美の曲にはなかなか隠れた名曲というものが存在する。「木綿のハンカチーフ」以外で特に僕が好きな曲は、筒美京平が「これ以上いい曲は書けない」と言ったという「赤いハイヒール」、「しあわせ未満」、「ドール」、「南風」などがある。「しあわせ未満」のシングルを買ったときには、そのジャケットに映った彼女の姿に胸が異常に高鳴ったのを覚えている。35年ぶりにネットでその写真を検索して見てみたのだが、なぜ当時あれほどまでに胸がときめいたのかを理解することはできなかった(笑)。

彼女は一時芸能界から身を引いたかに見えたが、子育てが一段落した10年ほど前からかなり活発な音楽活動を続けているようである。自分が一度でも好きになったアーティストが今も現役で活躍しているのは本当にうれしいことだ。
参考:GOLDEN☆BEST/太田裕美 コンプリート・シングル・コレクション [Limited Edition]
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