いやあ、聴きごたえありました、全159曲。総収録時間数はなんと10時間3分!!
しかも、それらが全てシングル盤の曲であるから、その密度たるや大変なものであった。改めてポールの偉大なる足跡がズシンと胸に響いた次第。
ポール初心者の人たちにも、とりあえずはサブスクでこの159曲を時系列で聴いてもらえれば、それがすなわち偉大なるポール・マッカートニーの歴史を手っ取り早く知る最速、最短の方法となるであろう。
それでは、この『ザ・7インチ・シングルス・ボックス』を聴いた僕なりの感想を素直に書いておこうと思う。
先日同じ職場で働く20代前半の男性と音楽の話をしていたのだが、彼はなんとLPレコードの存在自体を知らなかった(笑)。僕としては、「知ってはいるが、実際に見たり、聴いたりしたことはない」ぐらいだと思っていたのだが、驚いたことに彼は20年以上生きてきて、ほんとうにアナログレコードの存在自体を知らなかったのである。
調べてみると世界最初の音楽CDが発売されたのが1982年(ビリージョエルの『ニューヨーク52番街』)。今からちょうど40年前であるから、20代の彼にとっては生まれた時点で既にアナログレコードは消えゆく存在だったということだ。世の中自分が思う以上に時間というものは流れているのだな、と改めて思い知ってしまった。
今回『ザ・7インチ・シングルス・ボックス』に選ばれたレコードは、すべてアナログ時代にドーナツ盤とも呼ばれたシングル盤80枚である。
最初のシングル、『アナザー・デイ/オー・ウーマン・オー・ホワイ』は僕も実際にアナログ盤シングルを所有していた。その他1970年代に発売されたシングルはその多くを買った覚えがあり、自分の記憶では最後に買ったアナログ盤シングルはおそらく1985年の『スパイズ・ライク・アス』である(懐かしいなぁ~)。それ以後はすべてがCDへと移行していったのだ。
ゆえに、特に1970年代、1980年代の作品の多くは、自分がアナログのレコードプレーヤーで聴いたときの記憶と強く結びついている。おそらくこのボックスセットを聴く多くのオールドファンも、きっと自分が若かった頃にビートルズやポールを聴いていたときの生々しい記憶をきっと蘇らせるにちがいない。
僕にとってアナログ盤シングルを買うときの最大の楽しみは、ポールがB面にアルバム未収録の曲をしばしば用意してくれたことにあった。それは本当に胸が躍るような経験であった。しかもポールは驚くべきことに「B面はクズのような曲だった」と僕を落胆させるようなことはほとんどなかったのである。これは今考えても本当にすごいことだと思う。
さて、それでは各曲について個人的に思うところを書いてゆきたいと思うのだが、いかんせん曲数が多すぎて全ての曲について書くことは不可能である。というわけで、あくまでも個人的に特別気になったポイントだけをピックアップしてコメントしてゆきたいと思う。
・The Mess [Live at The Hague](2022年最新リマスター)
大ヒットシングル『マイ・ラヴ』のB面で、ウイングス初期の貴重なライヴ音源。しかも曲も演奏も大変にすばらしいときている。このシングル盤を買った1979年頃の僕は、まさかポールのコンサートを生で観れる日が来るなんて夢にも思わなかったものだ。
・Junior’s Farm/Sally G
アルバム『ヴィーナス・アンド・マース』の先行シングルだが、シングルA・B面共にアルバムには未収録、しかも2曲共いい曲となれば、「まるでビートルズのようだ」と若き日の僕がウイングスの虜になったのも無理はない。こんな離れ業を易々とやってのけるほど、当時のポールは才能と勢いに溢れていた。今聴いてもすごいカップリングだ。Sally Gは2022年最新リマスター。
・Silly Love Songs/Cook of the House
ビートルズ解散6年目にして最大のヒットを放ち、しかもそのB面にリンダのヴォーカル曲を持ってくるというあたり、いかに当時のポールが自信を取り戻していたのかがうかがい知れる。このシングルでウイングスは名実共に頂点を迎えるのである。
・Maybe I’m Amazed (Live)/Soily (Live)
当時LP3枚組という大作でありながら、全米No.1を獲得した『ウイングス・オーヴァー・アメリカ』からのシングルカット2曲。”Maybe I’m Amazed”はライヴ用の少しスローテンポの新解釈が功を奏し、Soilyはライヴならではのドライヴ感と迫力で、ポールのベストロックの1曲に数えるべき名曲である。このシングルを聴きながら、ウイングスのライヴを観る日を夢見た若者たちは数知れず・・・。もちろん僕もその中の一人であった。
・Mull of Kintyre/Girls’ School
これもアルバム未収録の最強カップリングシングル。発売当時、僕はこのシングル盤を数えきれないほどひっくり返しては聴いたものだ(笑)。『夢の旅人』はイギリスで大ヒットしたが、『ガールズ・スクール』もなかなかどうして甲乙つけがたい名曲で、この曲と『セーヌのカフェテラス』だけはポールにライヴでやってほしかった・・・(もはや可能性は少ないだろう)。既発の『ガールズ・スクール』は終わりがフェイドアウトしてしまうのだが、この2022年最新リマスターではきちんと最後まで収録してあって本当に嬉しかった!
・London Town/I’m Carrying
セールス的には不発に終わってしまったが、この美しい2曲・・・。ロックを遥か遠くへと置き去りにして、現代の大作曲家ポール・マッカートニーここにあり、と大声で叫びたくなるようなカップリングである。誰が何と言おうとも、僕の中では『ロンドン・タウン』はシングル、アルバム共に最高傑作の一つに数えられる。
・Goodnight Tonight/Daytime Nightime Suffering
これもアルバム未収録の強力なカップリング。僕にとっては2曲共に1位を獲ってなんら不思議のない曲だったが、思ったほどヒットをしなくなり始めたのがこの頃である。世間が求める音楽とのギャップが少しずつ生まれ始めたのだろうか??原因はわからない。だが、それでもポールは名曲を連発していたのだ。僕はこの事実を受け入れられず、その矛盾に苦しんでいた。Daytime Nightime Sufferingは2022年最新リマスター。
・Old Siam, Sir/Spin It On/Getting Closer
いずれもアルバム『バック・トゥ・ジ・エッグ』からの曲だが、3曲共2022年最新リマスターで、初めて聴くような新鮮さがある。やはりこのアルバムはロックアルバムである。『バック・トゥ・ジ・エッグ』もきっと近いうちにアーカイヴコレクションが発売されることだろう。
・ Coming Up (Live at Glasgow)
これも2022年最新リマスターで、アメリカではこのライヴバージョンがシングルとして発売され、全米1位を獲得した。ポールの全キャリアの中でもライブバージョンが全米1位を獲得したのはこの曲だけである(たぶん)。以前CD化されたバージョンでは曲の終わりに客席から「ポール・マッカートニー、チャ・チャッ・チャ・チャ・チャ・チャ♪」という歓声&拍手がカットされていて残念だったのだが、今回はオリジナルに忠実にすべてが収録されていて本当に嬉しかった(懐かしかった)。
・Spies Like Us(2022年最新リマスター)
発売当時、僕はこの曲があまり気に入らず、「ポールにしては小粒のシングル」と否定的だったのだが、久しぶりに聴いて良作であったことを再認識した。最新リマスターでさらにパワーアップした感じだ。
・ No Other Baby/Brown Eyed Handsome Man/Fabulous
アルバム『ラン・デヴィル・ラン』のシングルカット曲で、すべて2022年最新リマスターとなっている。きっと『ラン・デヴィル・ラン』もアーカイヴの準備は整っているのだろう。『No Other Baby』は『Love Is Strange』と共に僕がポールの最弱シングルではないかと個人的に思っている作品である。『No Other Baby』どこがいいのか?この感想は今も昔も変わらない(笑)。最強ロッカー『ラン・デヴィル・ラン』でよかったんじゃないの??
・In The Blink Of An Eye
これは珍しい。ポールがアニメーション映画『Ethel & Ernest』のために書き下ろした曲がこのセットには収録されている。リリース自体は今回が初めてではないようだが、少なくとも僕は初めて聴いた。よほどのマニアでなければ、この曲を持っている人は少ないだろう。これ以外にも珍しい曲がまだまだ発掘できる、ファンにとっては本当にありがたいボックスセットである。(完)
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