ポールのアルバム:『ラン・デヴィル・ラン(Run Devil Run)』 その3 - Macca Go Go Go! ポール・マッカートニーファンブログ

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ポールのアルバム:『ラン・デヴィル・ラン(Run Devil Run)』 その3

このアルバムの録音に先立つこと約1年間、「ポールは1度も歌を歌わなかったと言われている」と書いた。

たしかに、このアルバムで聴かれるポールの素晴らしいヴォーカルのことを考えれば、僕にはたとえそれが完全な真実ではないとしても、少なくとも事実に限りなく近いのではないかと思えてくる。なぜなら、2度のワールド・ツアーと数枚のアルバム制作を通してオーバーワーク気味だったポールの喉は、十分な休養期間を得て全盛期に勝るとも劣らぬ輝きを取り戻したかのように思われるからだ。このときポール57才。とっくにピークは過ぎたと言われてもけっしておかしくない年齢でありながら、彼はこのアルバムのいくつかの曲で、まるで20代の時を思わせるようなすばらしい歌声、そしてシャウトを聴かせてくれている。このアルバムからわずか2年後に発売された『ドライヴィング・レイン』でのヴォーカルと比較してみれば、いかにこの時のポールの状態が良かったかがわかるだろう。

そして遂にポールはスタジオに戻ってくる。初期のビートルズと同じくライヴ・レコーディングに限りなく近いロックンロール・アルバムの制作を決意するのである。ポールはアビイ・ロードスタジオに予約を取り、旧友のクリス・トーマスに共同プロデュースを持ちかける。

ロックンロールのカバーアルバムを制作するに当たって、ポールは十分に信頼の置ける腕利きのミュージシャンたちを集めた。集まったメンバーはデヴィッド・ギルモア(ギター)、ミック・グリーン(ギター)、イアン・ペイス(ドラムス)、デイヴ・マタックス(ドラムス)、ピート・ウイングフィールド(キーボード)という強力なラインナップ。ポールはいくつかの例外を除いて、ビートルズの時と同じくヴォーカルとベースのみを担当。こうして万全のバックバンドを従えたポールは再びスタートラインに立ったのだった。

最終的にアルバムに収録されたのは全15曲。12曲がカバー曲、3曲がポールの新曲である。

アルバム全体を聴いて思うのは、まず演奏が非常にタイトでレベルが高いということ。しかも高い緊張感を保ちながらも力みがない。ベテランならではのリラックス感というか、音楽自体を楽しむ余裕といったものが感じられる。この絶妙なバランス感覚はポールの他のアルバムにはないもので、ズバリ完成度としては1988年に発売された初のロックンロールカバーアルバム『バック・イン・ザ・U.S.S.R.(Снова в СССР)』をあらゆる意味で凌駕していると思う。

それにしてもバックのメンバーたちの演奏がうまい。デイヴ・ギルモアといえば、なんといっても『ひとりぼっちのロンリー・ナイト』での名演がファンの間では語り草となっているが、今回もまさにツボを押さえた完璧な演奏でポールをしっかりとサポートしている。そして、恥ずかしながらドラムスに元ディープ・パープルのイアン・ペイスが参加していたことは今回初めて知ったのだが、こちらもまた正確で小気味よい最高の演奏を聴かせてくれている。ポールがこれら本物のプロフェッショナルなミュージシャンたちに囲まれて彼の生来の音楽魂にさらに火がついたであろうことは想像に難くない。そう考えれば、このアルバムは初めから名盤が生まれるべく運命づけられていたともいえよう。

そして繰り返しになってしまうが、ポールのヴォーカルのすばらしさ。特にシャウト系の楽曲における破壊力は抜群である。57才にしてこの歌声、この実力。ロックンロール・ヴォーカリストとしてもポールはやはり世界一である。

前に「僕はカバー曲を軽視する傾向がある」と書いたが、それには例外も存在する。というのも、たとえ他人のカバー曲ではあってもヴォーカリストとの相性が良ければオリジナルを超えるような出来となる場合があるからだ。ご存じの通りビートルズによるカバー曲がそのいい例で、ポール関係では『ロング・トール・サリー』『カンサス・シティ』『ティル・ゼア・ワズ・ユー』などはもはやカバー曲という枠を超えて今やほとんどポールの曲といってもいいほどになっている。

要は曲との相性と、いかにしてその曲を自分らしく再アレンジするかという点にかかっていると思うのだが、今回ポールが選んだ12曲はそのどれもが非常にポールの音楽性との相性が良かったのだと思う。そしてポールはそれら曲をいったん自分の中で消化した上で独自の解釈のもとに再構成し、その結果生まれた楽曲たちはまるでオリジナル曲のような輝きを放つものとなったのだ。実際のところ、このアルバムに収録されたポール自身の手になるオリジナル3曲のうち『ラン・デヴィル・ラン』以外の2曲は特に目立つところはない。むしろカバー曲の中に埋もれているといった印象で、カバー曲がオリジナル曲に勝るという逆転現象さえもが起こっているのである。

かくして僕自身はこのアルバムをポールのオリジナルアルバムリストに新たに加えるものとし、ファイアーマン名義の『エレクトリック・アーギュメンツ』と共にポールのコアカタログ(主要作品)の1枚として位置付けることに決めたのであった。

ポールは史上最高のロックンローラーでもあったのだ。そしてその証拠はこのアルバムの中にある。(続く)

参考:
ラン・デヴィル・ラン(CD)
ライヴ・アット・キャバーン [DVD]

コメント
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ランデヴィルランは私もあまり好きではないんです。
管理者さんとちがってカバー自体はすきなので、本来、歓迎すべきリリースだったのですが、
きいてみて全然ピンときませんでした。
ながらくその理由がわからなかったのですが、今回の記事を読ませていただいてピンときました。
私はいわゆるロシアンアルバム『Снова в CCCP 』が大好きで、いまでもよく聞きますが、これは有名曲のオンパレードで、知らない曲は一曲もなかった。
しかし、このランデヴィルランは知っている曲がわずか3曲!!

ところが管理者さんは書かれました
『ポールはそれら曲をいったん自分の中で消化した上で独自の解釈のもとに再構成し、その結果生まれた・・・』
すごいです!!
自分の不勉強を恥じ、管理者さんの知見、音楽への造詣の深さに恐れ入った次第です。
ここまで聞かなきゃだめですね。ポール愛が足らなかったなあと反省しきりです。

ちなみに私が知っていたのは一曲めと3曲めと9曲めで、

とくに9曲めのブラウンアイハンサムマンは大好きな曲でした。
これはロバートクレイに秀逸なカバーがあり、またタニアタッカーのカバーも見事です。いずれもポールにかなり先んじてレコーデイングされていますが、
残念ながらこの曲に関してはポールは遠くおよんでいないように感じてます。
管理者さんのご意見が聞いてみたいです。

2015-06-02 19:06 │ from ゆうみんURL Edit

ゆうみんさん

たしかに『ラン・デヴィル・ラン』はあまり有名でない曲が多いようですね。でも聴き続けていると、不思議といい曲だなぁと思える曲が多いというのが僕自身の正直な感想です。『ブラウン・アイド・ハンサム・マン』は他のカバーは知らないのですが、この曲がシングルとして発売されたのは少々不満でした(笑)。このあたりはまた続きに書きますね。

2015-06-02 19:40 │ from 管理人URL