新作『キス・オン・ザ・ボトム』の感想 その2 - Macca Go Go Go! ポール・マッカートニーファンブログ

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新作『キス・オン・ザ・ボトム』の感想 その2

さて、このアルバムを実際に聴いてみて、僕がまず気付かされたのがポールをサポートするバックバンドの演奏の確かさと素晴らしさ、そしてアルバム全体の録音の良さである。これはただ単純に演奏と録音の良さだけを基準に考えるなら、ポールがビートルズ以降に発売した全作品の中でもおそらく一、二を争う出来なのではないかと個人的には感じている。

要するに、今回ポールが共演したダイアナ・クラールを始めとするジャズ・ミュージシャンたちと、プロデューサーのトミー・リピューマはほぼ完璧ともいえる仕事をしたということなのだ。

そこで、今回ポールが共演者として選んだミュージシャンのダイアナ・クラールとプロデューサーのトミー・リピューマとはいったいどんな人たちなのだろうかと思い、少し調べてみた。正直言って調べた結果はかなり衝撃的なものであった。というのも2人共ジャズ界では知らぬ者がないほどのビッグ・ネームだったからである。自分のあまりの無知さ加減に唖然(笑)。

CDのライナー・ノーツによれば、ポールがまずアプローチをかけたのはプロデューサーのトミー・リピューマだったという。とはいっても、ポール自身が以前から彼の事を知っていたということではなく、ポールが今回のアルバムのプロデューサーには誰がいいだろうかとMPLニューヨークオフィスのスタッフに打診したところ、返ってきたのがトミー・リピューマの名前だったということである。ポールはすぐさま彼と会い、たちまちのうちに意気投合する。そして彼と共にアルバムを制作することを決定するのであるが、そのトミーが共演を勧めたミュージシャンとして名前を挙げたのがダイアナ・クラールであった。

トミー・リピューマは1960年代から主にジャズ、リズム&ブルースの作品を手掛けてきた名プロデューサーである。彼がプロデュースしてきたアーティストにはマイルス・デイヴィス、バーブラ・ストライザンド、ジョージ・ベンソン、ナタリー・コールなどの大物がずらりと並ぶ。そして、その中にダイアナ・クラールが含まれていることはいうまでもない。
彼はグラミー賞の常連で、これまでにノミネートされること30回以上、そのうち3回が受賞を果たしている。

ダイアナ・クラールは現代のジャズ界において最も成功した女性ジャズ・ヴォーカリスト/ピアニストの一人である。グラミー賞も3度獲得するなど、彼女がこれまでに発表したアルバムはそのほとんどがベストセラーとなり、今日まで非常に高い評価を得ている。つまり率直に言って、今まで彼女の名前すら全く知らなかったことが恥ずかしくなるほどの有名アーティストなのである。
彼女の事を調べていて、特に僕が思わず声に出して驚いてしまったことが一つある。それは、彼女がエルヴィス・コステロの奥さんだったいうことである(2003年に結婚)。エルヴィス・コステロにとっては3人目の奥さんということなのだが、いやはやなんとも深い縁を感じさせる話ではないか。特に今回はエルヴィスつながりではなく、別ルートからたどり着いた縁であるからなおさらである。ポールもこの縁には少なからず驚きを感じているのではないだろうか。

ダイアナ・クラールの名前さえ知らなかったくらいだから、僕のジャズに関する無知ぶりも相当なものであるが、それでも僕は昔からプロのジャズ・ミュージシャンにはとりわけ畏敬の念とでもいったものを感じている。簡単にいえば、彼らがとても自分と同じ人間とは思えないのである。少なくとも音楽的な感性という面からいえば、彼らはとても自分などには理解できない高次のレベルで生きているように見える。言ってみれば彼らは自分にとってまるで宇宙人のような存在なのだ。

一つ例を挙げよう。僕にとってジャズ・フュージョン界で心底崇敬するフォープレイというグループがある(特にリー・リトナー在籍時)。彼らの演奏を見聴きするたびに、僕は音楽というもののすばらしさと、奥深さ、各プレーヤーの演奏ぶりのあまりのカッコよさに完全にノックアウトされてしまう。そして、どんなにがんばってみても不可能であることを知りながらも、彼らのようになれたらいいな、彼らのような生き方がしてみたい、などと思ったりするのである。

だから、ジャズというのはその取っつきにくさというのは認めるとしても、これまで自分にとって「キライな音楽」であったことは一度もなく、ただ「今の自分には理解できない音楽」といった形で、ほぼ手つかずのままでいつもそこに存在してきたのだった。

しかしながら、今回はポールのおかげでほんの少しだけジャズに対する距離感が縮まったような気がしているのである。実際このアルバムを聴いて「ジャズってなかなかいいな」と思ったファンも(僕を含めて)きっと少なくはなかっただろう。そして、これからもこのアルバムはロック、ポップスとジャズとの架け橋になってゆくにちがいない。

ただ、ジャズに関してまったくの素人であるこの僕が言うのもなんだが、このアルバムで聴かれるポールのヴォーカルスタイルはあまりジャズっぽくない、と聴こえてしまうというのもまた事実である。つまり演奏自体は完全なジャズだけれど、ポールが歌うことでジャズとポップスを半々にミックスしたぐらいの、いわば「ポール・マッカートニー風ジャズ」とでもいったものに形を変えているように思われるのである。このあたりをどう感じるかで、このアルバムに対する評価も人により変わってくるのではないかと思う。だから僕個人の率直な感想としては、『キス・オン・ザ・ボトム』は「ポールがジャズアルバムを作りました」というよりは、「ポールがジャズを歌ったらこうなりました」というようなアルバムだと思う。

ただ、それでもこのアルバムが単なるカバーアルバムで終わらないのがポールのすごいところで…。というのも、このアルバムにはジャズとか、ロックとか、ポップスとかいうジャンルを超えたまさにマッカートニー印の名品が何曲か含まれているからだ。(続く)

参考:
キス・オン・ザ・ボトム(日本盤 ボーナストラックなし)
Kisses on the Bottom (UKデラックス盤 ボーナストラック有)
ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・ダイアナ・クラール(初回限定盤)(DVD付)
ダイアナ・クラール 『ライヴ・イン・パリ』


コメント
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お邪魔します。 失礼、またまたこのアルバムを買ってない私が通りますよ(ハハ…)。

私もジャズ・ミュージシャンのポテンシャルの高さには舌を巻きますね。
彼らのいちばんの持ち味は、アドリブプレイに長けていること。
ポピュラー・ミュージックというのは、いったん決めてしまうと、その通りにやらないと秩序が保てないんですが、だから杓子定規に演奏してればそれで済む、というところがあります。
ただしリード・ギターなんかはかなりアドリブが効きますけどね。 クラプトンなんか、「ホワイル・マイ・ギター」 の間奏をレコード通りにやったことなんか、ただの一度もないでしょう。 ジミー・ペイジだって、ツェッペリンのライヴではレコードとはまるで違うプレイをするし。 彼らは普段から演奏しまくってるから、自由が利くんですよ。

それに対してジャズの場合、アドリブプレイを重視するために、コードをかなり縦横無尽に知ってないとプレイヤー同士が対抗できない。 それも、ただの一回も同じプレイが出来ないだけに(その曲による主題、というのはちゃんと最初と最後にあって、それだけは決まっているんですが)自分の体調や精神状態の良し悪しが如実にプレイに反映されてしまう。

でもそれを聴く側も、実はなになにのレコードのこのバージョン、というものを期待しちゃう部分もある。 スイングしきった傑作を求めてしまうと、それ以外の演奏を軽視してしまう落とし穴もある。

私がお薦めなのは、ソニー・クリスの 「アット・ザ・クロスロード」 とか、ソニー・ロリンズの 「サキソフォン・コロッサス」 なんかでしょうかね。 かなりメロディアスでポピュラーファンにも楽しめると思います。 まあポールファンにゆうてもしゃあないかな(なんじゃコラケンカ売ってんのかワレ)。 …失礼しました。 でも別にカッコつけじゃなくて、真夜中にゆったり気分を落ち着かせたいなあというときに、この手のアルバムはいいと思います。

2012-03-11 09:25 │ from 橋本リウURL

ポールが、スタンダードのカバー集を発表すると聞いて 誰がプロデュースするのか とても気になりました。
そして プロデューサーの名前は、トミー・リピューマ。ポールに進言したMPLのスタッフは よい仕事をしましたね。

しかし私は リピューマの名前を聞いても 最初はピンときませんでした。ジャズ界では大物との情報は頂きましたが、正直どんな作品に仕上がるか想像出来なかったです。

でも 後で調べてみると、ニック・デカロのAOR名盤『イタリアングラフティ』のプロデュースを務めていたのですね。
ずっと昔に 色んなジャンルの作品を聴き漁っていた時に このアルバムも聴いたのですが、AORにはあまり馴染めず 結局2~3回聴いただけでした。この度慌ててCDの棚から久し振りに引っ張り出して アルバムを聴いたのですが、 音の良さ 端整なサウンドメイキングは、リピューマらしい仕事ぶりでした。

トミー・リピューマという人は AORの始まりに多大な貢献をした人だったのてすね。最近はマイケル・フランクスなど彼がプロデュースした作品を もう一度改めて聴いています。

個人的に驚いたのは、デイヴ ・メイソンのソロアルバム『アローントゥゲザー』もリピューマのプロデュースだった事です。
いわゆるスワンプロックと言われるこの作品にリピューマが関わっていた事は 調べて大変驚きましたよ。

このアルバム、個人的に大好きでよく聴いていたのですが、リピューマの名前なんて 全く気づいてませんでした…
確かに 改めて聴いてみると、あの時代の作品にしては、音が綺麗に録れていますし、音の分離もハッキリしています。
同時期に発表された 同じくスワンプロックの名盤 ジョージの『オールシングス・マストパス』と比較しても、混沌としたサウンドと比べてサウンドが端整で、プロデューサーの違いがハッキリと表れていて とても興味深いです。

ジャズやAORは ちよっと苦手…という方にも、デイヴ・メイソンの『アローントゥゲザー』はお薦めですよ! 軽快なロックサウンドです。
リピューマのサウンドを理解する上でも参考になります。

しかし… ポピュラー音楽も奥が深いですね… 実は自分が気付いていない所で 未聴と思っていたサウンドを耳にしている事もあるわけですから。自分の無知ぶりが恥ずかしくなります(汗)
トミー・リピューマ、ジャズ界の大物にして、AOR・ソフトロックというジャンルを確立し、デイヴメイソンの名盤『アローントゥゲザー』もプロデュースし、ロックにも大きな足跡を残し、さらに今回 我らがポール・マッカートニーのアルバムをプロデュース… う~ん、凄い人だ…

今度 機会があれば、彼の代表作 ジョージ・ベンソンのアルバムも聴いてみたいですね。
ポールを通じて、また新しい発見がありましたよ。ホントに感謝です。

2012-03-11 23:42 │ from テツURL

リウさん
コメントありがとうございます。記事では書ききれなかった部分を補完していただいた感じです。そうアドリブ演奏のすごさも感心半分、理解不能半分といったところがあります。しかもレコードより、ライブでのアドリブ演奏のほうがずっとすばらしかったりということもよくありますよね。しかしリウさんはジャズも聴くんですね。また機会があれば名盤など紹介してください。

2012-03-12 08:04 │ from 管理人URL

テツさん
コメントありがとうございます。リピューマプロデュースのアルバムを知らずに聴いていたとは面白いですね。やっぱりすごい人なんだ(笑)。アルバムの紹介もありがとうございます。マイケル・フランクすという名前も久々に聴いて懐かしかったです。超有名曲『アントニオの歌』は大好きでしたが、まさかあの曲もリピューマのプロデュースではないでしょうねえ…。

2012-03-12 08:10 │ from 管理人URL

そうですね、管理人様もご存じかと思いますが マイケル・フランクスの「アントニオの歌」もリピューマのプロデュースたったそうです。
それを知ると リピューマの存在がグッと身近に感じられる方も多いのではないでしょうか?

トミー・リピューマは、ダイアナ・クラール等 新しい才能を発掘したり スターへと押し上げていく、幅広い意味でのプロデュース能力が長けている様ですね。
AORなど新しい音楽に対する嗅覚も鋭い様ですし、 自らレーベルを興したり ビジネスにも積極的に参画していて、かなり有能な人物だったのてすね。
こんな人物が ポールとコラボレーションしたのですから それだけでもビッグニュースですよね? 私は呑気でした…(汗)

しかし、リピューマが「アントニオの歌」等をプロデュースし、AORというジャンルをしっかりと根付かせていた70年代中盤は 我らがポールは ウイングスとして世界制覇へまっしぐらだった時期。
当時は全く接点は無かったと思いますし、逆に言うならばライバル関係でもあったはずですが、30数年を経た現在 こうして二人が一緒にアルバムを作るなんて、人の縁って不思議ですね。
70年代からポールを追っかけていらっしゃる方々には 特に感慨深い物があるのでは ないでしょうか…?

2012-03-14 23:07 │ from テツURL

テツさん
なんとあの『アントニオの歌』がリピューマのプロデュースでしたか!すごいですね。あの歌は僕の学生時代ラジオで本当によくかかっていました。僕はビートルズに夢中でしたからアルバムは聴いたことがなかったんですが、本当にいい曲だと思ってました。アルバムも聴いてみようかな・・・。

2012-03-15 02:47 │ from 管理人URL