新作『キス・オン・ザ・ボトム』の感想 その1 - Macca Go Go Go! ポール・マッカートニーファンブログ

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新作『キス・オン・ザ・ボトム』の感想 その1

まずは69才という年令にもかかわらず、けっして衰えることなき音楽への全き情熱と、そして常に自身の可能性に挑戦し続けるその高潔なる精神に対して、ファンの一人としてポールに深い敬意を表したい。またこうして彼の「ニューアルバム」のレビューが書けること自体に長年のファンとしてこの上ない喜びと深い感慨を覚えるものである。

ポール・マッカートニーはこのアルバムでまたしても前人未到の新たな領域に足を踏み入れたというのが正直な感想である。ビートルズ在籍中に僅か7年間で現代ポピュラー音楽のクリエイターとしては、おそらくそのすべてをやり尽くしたかに思われたポールであったが、彼はその翼をさらにクラシック音楽、アンビエント音楽(ファイヤーマン)、バレエ音楽(『オーシャンズ・キングダム』)にまで大きく広げ、一人の音楽家としてすでに他の追随を全く許さぬ地位を確立してきた。その彼が70才を目前にして、あらゆるファンの予想を裏切るほどの大胆さをもって新たに取り組んだプロジェクトが“本物の”ジャズミュージシャンたちとの共演であり、彼が子供の頃に慣れ親しんだスタンダード・ナンバーを中心とするカバーアルバムの制作であった。

それが1枚のアルバムとして実を結んだのが本作『キス・オン・ザ・ボトム』である。と同時に、本作品は記念すべきポール・マッカートニー初の本格的なジャズアルバム作品となった(実際にビルボードのジャズチャートで1位を獲得。現在も継続中)。これはポールが新たに打ち立てたポピュラー音楽史上に残る快挙であり、偉業でもある。その歴史的な価値は計り知れない。僕たちは今この瞬間に現代音楽の歴史的偉業に立ち会っているのである。

レコーディング・スタジオ:アバター・スタジオ(ニューヨーク)、キャピトル・スタジオ(ロサンゼルス)
ミュージシャン:全員ジャズ・ミュージシャン
プロデューサー:ジャズ界きっての大御所プロデューサー
ポールの担当楽器:なし(ヴォーカルのみ)

今回ポールはあえてホーム・グラウンドともいえるアビイ・ロード・スタジオを離れ、全く新しい場所で、全く新しい人々とこのアルバムの製作を開始したのだった。いわば完全なアウェー状態である。
ポールはアルバム完成後のインタビューで、このレコーディングにはとても緊張したことを告白しているが、ダイアナ・クラールはじめ共演したジャズ・ミュージシャンたちや、プロデューサーのトミー・リピューマはきっとその何倍も緊張したことだろう。なにしろ、あのポール・マッカートニーがはるばるイギリスからレコーディングのために足を運んでくるというのだから。

僕はこういうときのポールの行動力を本当に偉いと思う。ポールほどの人であれば、ホームグラウンドのアビイ・ロードに全員を呼び寄せるというのがまあ普通だと思うし、呼ばれた側としても相手がポール・マッカートニーであればロンドンであろうがどこであろうが喜んで足を運ぶにちがいない。それにポール自身としても絶対にそのほうが気が楽だし、いろんな意味で仕事がやりやすいはずなのである。

だが明らかに、意図的にポールはそれをしなかった(少なくとも結果的にその状況は起こらなかった)。ポールはきっと居心地が悪いにちがいない状況、つまりいわば畑違いの相手のホームグラウンドにたった一人で乗り込む道のほうをあえて選択したように思える。そこに深い意味があったにせよ、なかったにせよポールがこのプロジェクトを簡単で、自分にとって安楽な仕事にしようとはしなかったことだけは確かである。つまり、これまでにない体験、試練、ストレス、刺激、摩擦等々、いわば生みの苦しみを自らに課すことにより作品がこれまでにはないカラーを生みだすという可能性に賭けたのではないか…。

そういう意味においてこのアルバムは大成功といえるだろう。というのも、『キス・オン・ザ・ボトム』はこれまでにポールが発表したどんなアルバムにも全く似ていないからだ。しかもアルバム自体の完成度の高さはポールの全作品中でも上位にランクされると思われるから、このアルバムの評価はもっぱら聴く側がこの手の音楽を好きか嫌いか、という部分にゆだねられるのである。要するに『キス・オン・ザ・ボトム』は「こんなアルバムが1枚ぐらいあってもいい」と思わせる、そんな肩の凝らない、大人の雰囲気を漂わせた洒落た1枚なのである。(続く)

参考:
キス・オン・ザ・ボトム(日本盤 ボーナストラックなし)
Kisses on the Bottom (UKデラックス盤 ボーナストラック有)


コメント
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お邪魔します。
まだ買ってない私が言うのもなんですが(ハハ…)、このアルバムが、今後のポールの曲作りの血となり肉となることを、大いに期待するものであります。

ポールって、やっぱり違うベクトルの感性に、とても化学反応を起こしやすい人だと思うんですよ。
もっとも古く、もっとも啓発的だったのはジョン・レノンであることは論を待たないですが、ビートルズ時代でも、ジョージのインド音楽に啓発されて、「タックスマン」 ではリード・ギターの傑作を生み出したし、ホワイトアルバムでも、違うジャンルの曲を意欲的に取り入れて、自らの創造性を爆発させている。
ウィングス時代にそのような化学反応はなかなか見られなかった気もするのですが(メンバーとの、という意味で)、「バンド・オン・ザ・ラン」 ではアフリカにレコーディングに行くことで、状況の変化、過酷化をバネに、ウィングスとしての最高傑作を生み出した。

ソロ時代でも、エルヴィス・コステロとの共演とか、最近ではナイジェル・ゴドリッチとの化学反応も見事でした。 「エレクトリック・アーギュメンツ」 でも、…えー、なんて言ったっけな、あの共演者(爆)。

つまり自分を逆境に置いたりしないで安全なポジションにいたりすると、気が抜けちゃうのか、なかなか傑作が出てこない。

そんなポールにとって今回のアルバムは、とてもクリエイティヴ面で刺激的であるように見えます。

それにしてもこのアルバムの中古品は、すでにだいぶ値崩れをしている模様です。 しかし私は、U社から出される日本仕様の完全盤を、まだ待ち望んでいる…。

2012-03-08 06:34 │ from 橋本リウURL

言われてみればリウさんの仰る通り、背水の陣においてこそ真のポテンシャルを発揮してますね。
ウィングス時代も常にビートルズと比べられていたと思うとそうですからね。
常人では頭がおかしくなるほどの重圧のはず。
攻撃は最大の防御を地でいく生き方・・・まさに“雲のジュウザ”(笑)みたいで痺れます。

2012-03-09 00:33 │ from アイヤーダイURL

リウさん
コメントありがとうございます。『エレクトリック・アーギュメンツ』の共作者はユースですね。このときもそうですが、最近のポールはそういった居心地の悪い状況をあえて自分から作り出そうとしているような気がします。そしてそれが成功してますから、ポール自身が一番わかっているんじゃないでしょうか。
『キス・オン・ザ・ボトム』はロック志向のファンにはダメかもですね。すぐ中古に回るのもわかる気がする・・・。

2012-03-09 02:46 │ from 管理人URL

アイヤーダイさん
コメントありがとうございます。ホントにポールは凡人なら気が狂うかもしれないような状況の中で、涼しい顔をして生きてきた人物ともいえますね。先日もポールとナンシー、ステラが乗った列車が数時間立ち往生してしまったらしいのですが、ポールはあせらず騒がず、いつもの気さくなポールだったそうです。精神的には鉄のように強い部分を持っているんでしょうね。すごいです。

2012-03-09 02:50 │ from 管理人URL